nanashi先生の英語教育ブログ

英語教育を中心に、多様な情報をまとめながら様々な議題論題を提示していきます。なるべく広い範囲で、知識や経験のある方と意見交換したいですね。
機械おたくでもあるので、時折ICT教育についてもボヤきます。
僕は日本での教師経験を経て、現在は英語圏の某国で主にアジア系の留学生に英語を教えています。遠からぬうちに帰国する予定なので、帰国後はまた学校教員に復帰するような気がします。こちらでも英語教授法を養成校で学んだので、その視点からも語ります。

第4次産業革命とICT教育


〇全体の流れ
 産業界「第4次産業革命来るからIT系の人材ちょうだい」
 政府「あいよ!てことだから学校のほうでお願いね」
 教育業界「まじか俺らタブレットとかプログラムとかよく分からないよ」
 政府「外国はタブレットで電子教科書使ってるから、うちもやるんでよろしく」
 教育業界「とりあえず文房具の代わりとして使います」
 産業界「いや、でも今うちの新人タブレットとかスマホばっかでPC使えない・・・」


〇第4次産業革命について
 学校で日本の教育についてプレゼンした時に、オリンピック開催時期を目途に日本政府は日本の教育を大きく変えようとしている、その背景が第4次産業革命だとお話しました。その時の教官の先生方の反応は「第4次産業革命って何?」でした。
 さて、第4次産業革命とは、↓の日経の記事によれば「インターネット・オブ・シングス(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなど」の普及によって起きる産業の大変革だそうです。
成長戦略のカギ握る第4次産業革命を急げ
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/100463/060800067/…
一方、英語で4th industrial revolutionを検索すると、それはcyber-physical systemsの時代であると出てきます。
はて、聞いたことない言葉だぞ、と。調べてみると
サイバーフィジカルシステム(CPS)とは
http://cyber-physical-system.com/
「このサイバーフィジカルシステム(CPS)とは、現実世界の制御対象のさまざまな状態を「数値化」し、定量的に分析することで、「経験と勘」でしかわからなかった知見を引き出す仕組みのことです。」だそうです。
 この第4次産業革命により、今の社会に存在する仕事の半分近くがなくなってしまうと。そしてその後、先の歴史上の産業革命でそうだったように、また新たな雇用が生まれるだろうと。
 教師の現場感覚としては子供たちの将来をすごく心配しているというのが本音ではないでしょうか。何を教えたら、子供たちが将来路頭に迷わずに済むだろうかと。


〇ICT教育について
 日本の先端ICT教育(教育機関での実践・研究)

 世界の先端ICT教育


 ご覧の通り、日本の先端ICT教育はタブレットや電子黒板、電子教科書等を用いて今まで筆記用具や黒板、模造紙でやっていたことを電子機器に置き換えようとしています。その実現が、全国規模では4年後が目途となっていますね。
 一方、上記の例のように海外では生徒同士や生徒と教員がネットワークを通じて繋がりあって学んでいくことに重きを置いています。
 一見して日本が遅れているように見えますでしょう?その通りともいえますし、そうでもないとも言えます。まず、上記のGoogle Classroom。熊本大学では似たようなもので、さらに歴史も長く高機能なMoodleというシステムが使われています。
http://cvs.ield.kumamoto-u.ac.jp/wpk/wp-content/uploads/2014/09/luncheon209.pdf
 次に、プログラミングについて。現在、日本では子供の教育向けプログラミングとして、ビジュアルプログラミングというものがよく使われます。JAVAとかC言語とかPerlとかと比べて、ただ単に日本語で絵と動きを設定するだけのものです。一見して「こんなものプログラミングではない!」という批判もありますが、NPO法人CANVASの実践を見ても、イメージや創造性、論理性(?)を学ばせるという意味では効果が出ているようです。そもそもここで使われるScratchという言語、開発したのはMITですから由緒正しいとは言えますね。




【私見】


〇 ICT教育の推進には賛成(というかこれも賛否の議論は尽くされた)


〇 小学校はタブレット、中学校以上はパソコン


〇 貧富の格差を是正する努力が必要


〇 教育ソフトの充実が急務。文房具としての利用で終わるなら害しかない。


 産業界は今、パソコンの使える人材を求めています。政府はこれからタブレットを教育現場に導入しようとしていますが、タブレットは画面の大きなスマホです。スマホネイティブの若年世代にスマホの使い方を教える必要は皆無です。ただ、小学校低学年だとまだ文字の読み書きも導入時期なので、ローマ字を前提としたタイピングは尚早でしょう。その意味で、導入期にタブレットを活用するのは良いと思います。ですが、中学校からパソコンに移行し、大学ではパソコンで作成したプレゼンで発表をする等できるようにしていくのが良いかと思います。
 貧富の格差について。そもそも教育に使われるすべての道具は安くて信頼性があるべきだというのが持論です。でなければ、買える買えない家庭に教育格差が生まれ、ひいては貧富の差の拡大・固定につながるからです。学校負担にしても、財政状況の悪い自治体は導入が遅れるでしょう。ここは国が積極的にサポートすべき部分です。タブレットは電源をバッテリーに依存し、供給口のコネクタも含めて耐久性が弱いため1~2年で壊れます。そのたびに5~10万円のコストが各家庭や自治体にかかるわけです。やるからには、意味のある事をしなければ貧しい子供たちを苦しめてまでICT教育を推進する意味がなくなってしまいます。前回の投稿とも重なりますが、これからの教育政策は才能のある有能な子供を主軸に構成され、貧しい子や能力の低い子は二の次になっています。そうでなければ、これからの時代に日本そのものが対応していけないからです。収入の差は能力の差であり、能力の差は生まれ持った素質と家庭の貧富によって決まる部分が小さくありません。つまり、資本主義社会を50年も100年も運営すれば、貧富の差は拡大固定するのが自然現象です。だからこそ、政府が音頭を取ってその格差を是正するように努力すべきなのです。でないと長期的には社会秩序が保てなくなりますからね。僕が貧しい子供に配慮しろというのは教師の性というか感情論ですが、そういったわけで日本の国益から見ても決して綺麗事ではないのです。
 そして結論。文房具としては文房具のほうが優秀です。模造紙で済む程度の発表は模造紙ですべきです。大量の情報から正しい情報を見つけ出す調べ学習(強力なフィルタリング必須)、生徒同士がネットワークを活用して協力するグループ活動、ネットを介しての課題提出やスケジュール管理など。今はそうした実践が教師の個人研究に依存しています。しかし、教師はアプリ開発のプロではありません。ここはプロ集団である企業に政府が相応のお金を払って、質の高いアプリを開発すべきです。教師個人にできる範囲でイノベーションは起きません。それが日本のICT教育が文房具の置き換えにとどまっている最大の理由ではないでしょうか。ICT教育は、コストのかかる教育なのです。コストを回避すれば、ハードにかけるコストが無駄になってしまいます。